編曲実績5000曲以上 創作を支えるモチベーションとは

工場内の音楽室 オルゴールの曲づくりは、デジタル全盛時代にあって、アコースティックな音色を追求するひたむきな世界。製造機械が稼働するオルゴール工場の一角に、外部の音が入らない静謐な空間が設えられている。10台のパソコン、音響機器、キーボード、楽譜などの資料。音の連なりをアートする。この部屋の主の人柄をしのばせるインテリア。オルゴール編曲者・飯田英樹の仕事場『音楽室』だ。

    • オルゴール編曲者 飯田英樹

    • いいだ・ひでき 長野県出身。

    オルゴール製造部門を経て1998年からオルゴール編曲一筋。
    手掛けたオルゴールの編曲は5000曲を超える。

#01 仕事のこと

依頼

  • 編曲作業は、飯田の元に編曲依頼が入るところから始まる。営業部門から曲を指定されることもあれば、一般のユーザーからオリジナル曲の編曲をオーダーされることもある。

    オルゴールの編曲とは

    あらゆる楽曲をオルゴールで演奏させるために、音楽的な「作曲技法」と機械的な「設計技術」の両面からアレンジする作業。オルゴールのソフトウェアにあたる部分だ。

曲想

  • 最初は提供された音源をよく聴き、キーボードを奏でて曲想を練る。
    オルゴールの演奏時間は15秒、30秒、90秒と限られている上に、発音できる音の数も少ないものでは18音しかない。原曲のどこをどのように切り取るかが、腕の見せどころ。

    「原曲のどの部分をオルゴールにするかは非常に重要です。楽曲の本質を活かすためにサビから始まる編曲にしたり、場合によってはつなぎ合わせたり。無理に編入してもオルゴールに合わず、音色を活かしきれない作品になります」

創作

  • オルゴールは、音の強弱をつけることができない、バイオリンのように長く続く音は鳴らない、連打はできない、など一般的な楽器の編曲よりはるかに困難な条件の中で最大限の音楽を表現していく。

    「原曲のイメージを残しながら、音楽的な制限をクリアし、その上でオルゴールの音色が快く響く編曲に至るには、経験やノウハウが必要ですね。そして、同じ部分を何度も繰り返し編集していく作業は根気と集中力も必要です」

編曲支援システム

  • 仕事を始めた当時は手書きで楽譜を起こしていた。
    そこからオルゴール用の図面に写していたが、今はパソコンに直接入力できる。

    「構想がまとまるとパソコンに向かい、自社製アプリケーション『オルゴール編曲支援システム』に楽譜を入力します。通常の音符を打ち込むと、それがオルゴール専用の図面となって社内で共有されます」

アレンジの完成

  • 編曲ができあがり、工場に完成図面を送ると飯田の編曲作業は完了する。

    「工場の熟練スタッフは頼りになる仲間です。私のアレンジを常にベストの状態で製品にしてくれます。協力して作り上げた製品の音色を思わぬ場所で耳にすると嬉しいですね」

#02 モチベーション

仕事を支えるモチベーション

業務の中で得る達成感

  • 全国ツアーを行うミュージシャンから、ツアー会場での物販やファンクラブ会員への記念品として、持ち歌をオルゴールに編曲して欲しいという依頼も。

    「著名な歌手から楽曲を依頼されるケースもあります。注文はハードルが高く、編曲の仕上がりについてのやりとりを何回も行います。最初の選曲がオルゴールアレンジに合わないと、曲が変更になったこともあります。一人のミュージシャンとしてリスペクトする方からのオーダーですから、最終的にOKをいただけた時の達成感はひとしおです」

    飯田自身もオルゴール編曲以外に、休日は仕事を離れてジャズフュージョンのバンド活動を行っている。

03 これからのこと

目指す方向

  • 飯田が目指すのは、多くの方に本物のオルゴールを触れてもらえる機会を増やすことだと言う。

    「オルゴールに似た音って、今は身近に溢れています。デジタルの澄んだ音を聞いて“これがオルゴールの音!”って思っている方も多いと思います。実際のオルゴールは、結構色んな音が混ざっています。きしむ音とか動力のうなり音もある。そんなアコースティックさが魅力です」

後進に伝えたいこと

  • これからオルゴール編曲者になりたいと言う人がいたら、どんなアドバイスをしますか、
    という問いを飯田に投げかけた。今までそんな質問されたこと無いと笑いながら、答えてくれた。

    「いろんなジャンルの音楽を幅広く聴くこと。さらに、音楽知識や音感はもちろん必要ですが、オルゴールの機械的な側面も学んで欲しいですね」